ファンマーケティング実践事例:メルカリとYAMAPのアプローチ
近年、顧客とのつながりを深め、持続的な成長を支える「ファンマーケティング」が注目されています。企業は製品やサービスを提供するだけでなく、顧客との関係性を重視し、熱心な支持者、すなわち「ファン」へと育成する戦略を模索しています。本記事では、トライバルメディアハウス高橋遼氏の著書『ファーストフォロワー』(2024年)にて紹介されている、メルカリとYAMAPの事例を抜粋し、どのようにファンマーケティングを実践し、成功を収めているのかをご紹介します。
メルカリの事例
日本最大級のフリマアプリであるメルカリは、出品意向はあるものの実際には出品に至っていないユーザーが約3610万人存在するという課題を抱えています。この状況を踏まえ、メルカリは利用意向の高い「ファン」層に着目し、彼らをサービスの広告塔として活用する戦略を採用しました。具体的には、新機能に関する意見交換、ユーザー生成コンテンツ(UGC)の創出、メルカリに関するコラム執筆などを「ファン」に依頼しています。
『ファーストフォロワー』では、メルカリが「メルカリサロン」というSlack上のコミュニティを開設した事例が紹介されています。選定された16名の利用意向の高い「ファン」がこのコミュニティに参加し、上記のような役割を無報酬で担っているのです。この取り組みにより、メルカリはユーザーとのより密接な関係を構築し、サービス利用の促進を図っています。
なお、「メルカリサロン」のメンバーは一定の任期付きで運用されており、常に高いモチベーションを維持しながらメルカリと共創し、潜在的なユーザーに働きかける仕組みが構築されている点も注目すべきです。
YAMAPの事例
本書では、国内最大規模の登山愛好者向けアプリであるYAMAPが、どのようにしてユーザーに安全で快適な登山体験を提供しているかについても紹介しています。LINEのような日常的なコミュニケーションアプリとは異なり、登山アプリの利用頻度が限られている中で、一回一回の利用体験をいかに濃密にするかが重要な課題です。
YAMAPは、この課題に対し、同社の最大の資産であるファーストパーティーデータ、すなわちユーザーの膨大な歩行ログを活用するという解決策を講じています。このデータにより、他社には真似できない独自の価値をユーザーに提供している点が特徴です。
具体的な取り組みとして、「フィールドメモ」機能が挙げられます。ユーザーが「迷いやすい」と多く記録している地点のデータを蓄積し、それをもとにアプリ内で注意喚起の記事を公開したり、報道機関に情報提供を行うことで、遭難事故の未然防止に貢献しています。この仕組みは、ユーザー同士が善意で投稿した情報をファーストパーティーデータとして活用する共助の形であり、YAMAPの強みを際立たせています。
また、YAMAPは登山ルートの提供にとどまらず、ユーザーの安全を支える情報発信やコミュニティ形成にも注力しています。アプリ内での登山記録共有システム、YAMAP代表も参加するミートアップイベント、さらには環境保全活動への参加を通じて、ユーザーはYAMAPを単なるツールとしてではなく、より深く関わりを持つことのできるコミュニティの一員として感じることができます。
共通点とまとめ
現代のマーケティングでは、単に製品やサービスを提供するだけでは顧客の心を掴むのが難しくなっています。信頼関係を築き、熱心なファンを育成することが不可欠でしょう。メルカリとYAMAPの事例は、ファンが単なる顧客を超え、サービスの成長を支える重要なパートナーとなり得ることを示しているといえます。
メルカリの事例では、企業がユーザーと共に価値を創造する「共創」の重要性を強調しています。ユーザーの洞察や創造性を引き出すことで、思いがけない革新的なサービスが生まれる可能性を示唆しています。一方、YAMAPの事例では、ユーザーから得られるデータの活用が付加価値の向上に不可欠であり、ユーザーの行動ログがサービスの改善や新たな価値発見の手がかりとなることを示しています。
さらに、コミュニティの役割も重要です。両社は、ユーザーエンゲージメントを高め、ロイヤリティを向上させるために、コミュニティの力を効果的に活用しています。企業がユーザーにとって安心できる交流の場を提供することで、強固なファンコミュニティを構築することができます。
これらの事例から、ファンマーケティングが現代のマーケティングにおいて重要であり、その実践にはユーザーとの共創意識と企業の根本的な価値観が不可欠であることが理解できます。顧客を共に成長するパートナーとして捉え、長期的な関係を構築することが、ビジネスの成功につながることでしょう。