多様化社会の波は家庭内にも。 “個人化する世帯”の理想カタチとは?
個々の生き方を追求し、互いを認め合う。多様化社会の波は、世帯のあり方も変容させつつあります。世帯研究所では、“世帯の個人化”をひとつの重要な変化と考え、さまざまな影響を考察。個人化した世帯が結束するにはどうするべきか、ホームオーガナイザーの吉島智美さんとお話しました。
〈聞き手・世帯研究所 古川彩子〉
個人化?それとも放任主義?
世帯のカタチは、部屋にあらわれる
世帯研究所・古川(以下、古川):
吉島さんに相談される方は、どんな方々が多いですか?
吉島さん(以下、吉島):
さまざまな世帯があるけれど、最近はそれぞれが自立しているお宅が多い気がします。その反面、それぞれがお互いに無関心になりやすいな、とも感じます。よくいえば、個人が尊重されているし、裏を返せば放任主義といえるますよね。
古川:
まさに“世帯の個人化”ですね。以前は家族みんなで同じテレビ番組を見たりとか、世帯内で共有できるモノ・コトが多かったのかも。だから、お互いにわざわざ言語化する必要もなかったというか…。今は価値観が多様化して、みんなで自然と同じ方向を向きにくくなっていますよね。
吉島:
サザエさん一家のような、世帯の典型はすっかり崩れてしまいましたよね。共働き世帯が多くなって個々の財力がアップした結果、各自で好きなことができるようになりましたし、これだけ多くの価値観がある時代では、ロールモデルも見つけにくいですし。
古川:
お互いに無関心だと、部屋にもそれぞれの持ち物が無秩序に広がっていきそうですね。
吉島:
そうですね。昨今は新型コロナウィルスの流行で、リモートワークが推奨された結果、家の中にワークスペースをつくる方も増えました。個人の荷物が、共有スペースにひろがっているという世帯も。以前なら、家族の持ち物は、母親が独断で整理してしまうことが多かったんですが、今は、持ち物の処分は本人に確認するのが常識に。多様化の影響は片付け・収納にもあらわれていますね…。
古川:
片付くまでのステップを想像すると、なんだか気が遠くなりますね…。単にモノを片付けるのではなく、世帯をまとめていくのが課題なんですね。
吉島:
個人主義でもうまくいく世帯はあります。世帯という横のつながりがしっかりしていれば、それは本当の自立の形なのかもしれません。反対にうまくいかない世帯は、世帯内でお互いをジャッジする傾向が。無意識だと思いますが、あふれる情報の中から自分に都合のよいものだけをピックアップして、他人をねじふせようとする向きがあります。うまく機能している世帯は、そういう視点で相手を見ません。例えば、相手に注意するにもユーモアを織り交ぜるなど、笑いがあるんです。
「共通目標」がポイント!
うまいくいく世帯のカタチ
古川:
お互いに無関心な世帯には、何が必要ですか?
吉島:
世帯内で同じ目標を持つのがおすすめです。それが、お金に関するコトだと、より効果的ですよ。たとえば「新しい家を買う」などは、世帯の方向性をまとめやすいかもしれません。今よりももっと広い家に住むとか、良い家に住めるという可能性を示すんです。
古川:
具体的には、どう進めたらいいのでしょう?
吉島:
お互いの持ち物を整理して、必要なモノを見極めれば、ムダ買いもなくなりますよね。その分余ったお金で、ゆくゆくどんな家が買えるのかシュミレートしていくんです。ビジュアルも合わせて提示すると、一層団結感が生まれますよ!
古川:
なるほど。ビジュアルでイメージできたら、同じ方向を向きやすいですね!
吉島:
実際の経済状態を示すことで、どんな家に住めるか検証することは、目標やゴールまでのプロセスを見える化するということ。プロセスに実現可能性を感じられれば、みんなのモチベーションにつながるんです。
理想は個々が際立つチーム制!
世帯というチームになるために
古川:
お金と片付けは、やはり関係があるんですか?
吉島:
もちろんです。簡単にいうと、片付ければムダがなくなり、モノが少なくなる。すると物欲も比例して減っていくんです。経済的に余裕がない世帯ほど、床の上にモノを積み重ねる傾向がありますね。
古川:
確かに…。モノって家計状況のあらわれなんですね!
吉島:
実際、片付けができている世帯は、家庭内の話し合いもよくできていますよ。当然、ライフプランについても話す機会があるはずです。世帯のお金の運用や、子育て、そして老後まで、うまく計画して実現する世帯が多いです。
古川:
理想的ですね。世帯内でお互いに無関心だと、計画を立てよう、という地点に立つのも難しいですものね。
吉島:
個人化がすすんでも、世帯内でのコミュニケーションは必要なんですよ。さらに「話し合い」は、お互いに尊重の意思がないとできません。あとは世帯のメンバーが、世帯内の誰かに依存しているような関係もバランスが良くありませんね。個々が自分の意見を持ち、しっかりと役割を意識できているのが理想です。個々人に世帯というチームのメンバーだという自覚があれば、いざという時にもスッとまとまるんです。
古川:
個人でも、世帯というチームとしても機能できるということですね。
吉島:
そのとおりです!世帯内にマネジメントスキルが必要な時代になったのかもしれませんね。マネジメントとは、相手の良いところを引き出し、活かすということ。相手の長所を見つけだすためにも、関心をもつことが必要です。
古川:
マネジメントは一方的に管理するのとはちがいますよね。世帯内での話し合い、というと、相手の悪い部分を直してもらうという視点になりがちな気がします。
吉島:
そこなんです。そういうときこそ、まずは相手に関心をもってみたらどうでしょう?片付いていなかったら、「このところ忙しかった?」とか、「○○がたくさんあるけれど、好きなの?」とか、何気ない質問をしながら関心を寄せてみるのがおすすめです。
古川:
わたしはまさに夫に「似たような服ばっかりだし、数減らしたら?」って言っちゃってますね…。勉強になります!価値観が多様化して個人化が加速する時代だからこそ、共通目標を設定したり、可視化するのが必要ですね。そして相手へと関心を持ち、伝えていくことも…!
しかし、片付けが、こんなに深いテーマだったとは驚きました。
吉島:
私は設計士でもあるんですが、家そのものには未来への希望がつまっているんです。一方、家の中にあるモノには、住む人の過去や現在、未来も全部があらわれる。片付けに心を向けることが、世帯を知る良いきかっけになると思います!
古川:
片付けがうまくいっていないな、と感じたら、お互いのことを知り、結束を高めるチャンス、ということですね。世帯内でどんどん個人化が進むことを、漠然とネガティブにとらえていたんです。でも、吉島さんのお話を伺ううち、それぞれがそれぞれらしく世帯内で活躍することで、世帯の底力はアップするんじゃないか、と思うことができて、なんだかワクワクしてきました。
今度は、より実践に役立つ、片付けきっかけでのコミュニケーションのコツもお伺いしたいです。またぜひ、よろしくお願いいたします!
まとめ
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