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世帯というチームで乗り越える!“今どき世帯”と防災

災害大国・日本で暮らす上で、防災は無視できないもの。“世帯の個人化”がすすむ今どき世帯では、防災の意識や対策はどのように変化してきているのでしょうか?危機管理アドバイザーの国崎さんと、今どき世帯と防災のあり方について考えました。
〈聞き手・世帯研究所 古川彩子〉


【国崎信江(くにさき・のぶえ)】危機管理研究所代表。
出産後に見た阪神淡路大震災の映像をきっかけに、防災や防犯対策を研究。
これまでに省庁の各種委員や自治体のアドバイザーなどを歴任。
「大切な家族と自分を守る はじめての防災ブック」(ナツメ社)など、多数監修。

備えや心得は世帯で異なる!「おうちDEキャンプ」でシミュレーション

世帯研究所・古川(以下、古川):
大地震に夏場の水害など、自然災害に翻弄される日本。世帯にとっても、防災は大きなテーマです。数多の災害を経験して、インターネットで検索すれば、必要な備えや心得の情報はたくさん出てくるようになりました。改めて世帯に必要な備えとは、どのようなものでしょうか?

国崎さん(以下、国崎):
すべての世帯にあてはまる備えや準備って、実はないんです。必要なモノは、世帯によって異なりますから。たとえば乳児や高齢者がいるなど、世帯構成によっても変わってきます。でも食事やトイレは、多くに共通し、大部分を占める問題ですね。世帯内の個々のライフスタイルや、こだわりについても考える必要があります。

古川:
どのように考えていけばよいですか?

国崎:
災害に限らず、ふだんから家族が何を必要としているのか考えるとよいかもしれません。乳児がいるなら体温調節や衛生面を考えて複数の着替えが必要ですし、ミルクやおむつの準備も大事です。手元にないとストレスにつながるものほど優先度が高いはず。世帯のメンバーが、“何に耐えられないのか”を探るとよいのかも。

古川:
「何が必要か」より「何に耐えられないか」。世帯にとって、要不要の境界を探っていくイメージでしょうか。

国崎:
そう、必要なモノを探るためには、想像力が必要なんです。でも、被災経験がないとイメージしにくいのも事実。そこでおすすめなのが「おうちDEキャンプ」。災害時のシミュレーションとして例えば15時頃から5時間ほど、ライフラインをストップさせて過ごすんです。

たとえば保存食があっても、カトラリーがなければ食べるのに苦労しますし、乳児がいたらカトラリーの種類も増えます。ふだんから家族の細かいケアをしている人じゃないと把握できない必需品もあるはず。そういったモノも、「おうちDEキャンプ」なら見えてきますよ。

古川:
すごく良いアイデア!リアルな備えにつながりそうですね。

国崎:
そうなんです。専門家が必要なものを挙げても、それはあくまで一般論ですから。

古川:
備えだけでなく、心得の部分ではどうですか?

国崎:
ストレスに弱い時代になったのかもしれない…と思います。最近だと、災害でまずメンタルがやられてしまう方も多いんです。それだけでなく避難所などは集団生活ですし、忍耐も必要になってきます。特に若い世代はそういった環境での耐性が低いかもしれません。学校を卒業したら、そもそも集団で何かをするという機会が少なくなりますから。

古川:
確かに……。町内旅行や会社の飲み会も珍しくなりましたし。多様化によって自分らしさが認められる反面、集団への順応力は、全体的に落ちてきている気がします。世帯研では、それは少なからず世帯内でも起きている、と考えています。

国崎:
だからこそ、経験を積むのが大切。「おうちDEキャンプ」は、精神面での予行演習にもなると思います。非常時は集団生活を強いられ、プライバシーが守られにくいということを踏まえ、心を強くしていくことも、防災には大切ですから。

まずはスマホ!いざというとき、今どき世帯に必要なモノ・コト

古川:
昔と比べて、今どき世帯ならではの備えというものはありますか?時代の変化にしたがって、重要性が増したものとか。

国崎:
今は、とにかく、スマホと充電環境が大切です!今や80代もスマホを使う時代。大きな揺れで停電などが起きた時に、スマホの充電が残り20%だったとしたら、これほど心細いものはないですよね。

古川:
同感です!いつも近くにあるものだし、助けを呼ぶにしてもまずスマホ!となりますよね。スマホを充電できるモバイルバッテリーの常備はたしかに必須。スマホが使えないと、世帯運営も成り立たない、という声は多そうです。

国崎:
以前は、三種の神器のように、「懐中電灯」「保存食」「笛」がマストでした。最近はそれにトイレの備えの必要性も知られるように。ちなみに、簡易トイレは用意したけれどトイレットペーパーを忘れていたという方も多いです。

古川:
核家族化や世帯の多様化にはじまり、コミュニケーションの形も変わってきました。防災を考える上で、モノだけでなく何に留意して備えていくべきでしょうか?

国崎:
万が一のときに大切なのは、“つながり”です。それは、かつてのご近所・親戚付き合いのような強固なものでなくても、馴染みの店をつくる、といった形でもよいかと。自分にとって心地よいつながり方でいいんです。

古川:
たしかに行きつけのお店があれば、顔を見せなくなると気にかけてもらえそうですね。一方で若い世代は常連の店のようなリアルなつながりが少ない気も。

国崎:
SNSでつながる若い世代は、 “災害時だけつながる”というように割り切った考え方でもいいと思います。今は、SOSボタンを押すと近くにいる人が応答し、かけつけてくれるという便利なアプリも。

古川:
緊急時に来てくれる、というと、やはり家族の顔が思い浮かびますが、家族がこれだけ個々に多様な暮らし方をするようになった今は、さまざまな選択肢があってもよいですね。“頼るべきは家族”という時代ではないのかも。

国崎:
思い返せばみんな、自分なりの心地よいつながりを普段から探しているはずです。それを「災害時にどう展開するか」という視点をもってみるといいと思います。

災害時は、世帯のチーム力が試される!

古川:
共通の話題が減っているといわれる今どき世帯。コミュニケーションの質も変わってきているように思いますが、それらが防災に与える影響はありますか?

国崎:
そうですね。家族間の連絡もオンラインで行うことが多くなりました。メリットは物理的な距離や時間に左右されずいつでもつながれるようになったこと。デメリットは、いつでもつながれるからといって、災害が起きたときの取り決めを先延ばしにすることかな(笑)。

古川:
耳が痛い……。一長一短ありますね。やはりそこは家族会議が必要なのでしょうか?家族が個々に過ごす昨今のライフスタイルでは、話し合いの機会をつくるのもひと苦労ですよね。

国崎:
かしこまって話さなくても「今日は地震があったね。大きな地震がきたら、うちの場合はどうする?」など、日頃の会話の延長で話したり、アイデアを出すのがよいかもしれません。話したことや決めたことは、グループチャットのメモ機能などを使って残しておき、困ったときにすぐに確認できるようにするのもおすすめです。

古川:
個々の生き方が多様化するほどに、情報を集約するのが大切ですね。日頃から話したことを残して、内容をどんどんアップデートしていけば、いつの間にか世帯オリジナルの防災マニュアルができる。これは、今どきの世帯ならではの賢い方法かも。

国崎:
オンライン上のメモは、ロールモデルとして別の家族や親戚にも簡単にシェアすることができます。せっかくこの時代に生きているんですから、便利な技術を有効に活用してほしいです!

古川:
なるほど。集約しやすいだけでなく、世帯間で知見をシェアできるのも利点ですね。
世帯を災害時に協力し合う1つのチームとして捉えたとき、昔のように世帯主がすなわちリーダー、という構図はすでに過去のものですよね。災害時の世帯チームにとって必要な考え方は?

国崎:
確かに、強いリーダーの指示をメンバーが聞く、といったトップダウン式のチームは古いかもしれませんね。家族の性格や得意な分野も異なるので、メンバーを適材適所に配置させるのが今どき、と思います。旗振り役が固定されていた時代と比べて、柔軟に役割分担がができ、知恵の持ち寄りもできる。今どき世帯なら、災害時でも少ない人数で最高のパフォーマンスを発揮できると思うんです。

古川:
情報収拾はネット検索が得意な子どもお願い、とかは今っぽいですね。個々の能力に応じた役割を担ってもらうことで、家族のメンバーの長所に気づくこともありそう。

国崎:
震災離婚という言葉もありますが、災害は人の本性が見えてしまう機会でもあると思うんです。良いところも悪いところも含め、「おうちDEキャンプ」で万が一のときにどのようなことが家族の問題になりそうか知っておくとよいですよ。配偶者なら「意外と頼りにならないのね」とか(笑)、子どもなら「こんなことも一人でできるようになったのか」と成長を知れたりも。

古川:
実際の災害のような切羽詰まったタイミングで、初めて知るのは避けたいこともありそうですね(笑)。日常の中でシミュレーションすることで、楽しみながら自分たちのリアルを知ることができる「おうちDEキャンプ」は、本当にいいアイデア。

多様化社会の流れを受けて、個人化がすすむと「世帯の防災力」は落ちる一方なのではないか……と考えていましたが、自分たち個々の特性を知り、柔軟に協力することで、これまで以上に高められる面もありそうだ、と感じました。

一方で、ストレス耐性や世帯間連携などは、引き続き掘り下げていきたいテーマですね。ぜひまたお話を聞かせてください!


まとめ

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